―何処だろう。
体が重い…水の中にいるみたい。
もう翼は動かせないや。
苦しい。
光はどこ?
ここから出たいよ。
手を伸ばしてみる。何もつかめない。
ポポちゃん…お母さん…お父さん…みんな…
苦しいよ。
助けてよ。
会いたいよ。




死にたくないよ―。







太陽が昇る。
明るくなって、痛々しいココの姿がよく見える。
息こそ落ち着いてきたものの、もういつ死ぬか分からない。
点滴が体に流れていく様は、まるで恐怖を流し込んでいるようだった。
ポポは、あれからずっとココの手を握っている。
哀しくて怖くて。
目を覚ましたらココが死んでしまっているかも知れないと思うと、眠れなかった。
「ココちゃん…」
つい力をいれてしまう。そのせいか、ココがゆっくりと目を開けた。
その瞳は、もう生気を失っている。
「ポポちゃん…私ね、夢見たんだ」
「夢?」
ココは目線こそ天井を向いているものの、どこか遠いところを見ているようだった。
そう、遠いところを。
決して手の届かぬ、遠すぎるところを。
「とっても暗い所でね。苦しくて、冷たくて、誰もいなかったの」
「ココちゃん…」
「何にもつかめなくて、翼も動かせなくて。すごくこわくて…」
ココの瞳からは、皮肉にも輝いている涙が溢れ出す。
幼くあどけない顔が、恐怖の涙で濡れていく。
「大丈夫だよ、ココちゃん。もう起きてるじゃない。私、ここにいるよ」
「うん…でも、私もうすぐ死んじゃうんだよね」
「そ…そんなことないよっ。元気になるって、お医者様が言ってたよ、ほんとだよ!」
「そうなの?」
「うん。だからまた…いっ…しょに…あそぼう…ぅぅ」
ポポは泣き出してしまった。
嫌だ、なんで涙が出てくるの。笑ってよ、私。
嘘でいいから。そう、仮面でいいから。
へたへたと座り込む。翼が、力なしに垂れる。
「ポポちゃん…優しいんだね。でも、わかるの。自分の体だもの。もうだめなんだわ」
瞳から、また大きな雫が溢れる。死への恐怖と、別れへの寂しさが混じった涙。
止まらない。
「もうちょっと…わがままはだめだけど、もうちょっと一緒にいたかったな…」
「まだだよ!ずっと!ずっと…いっしょ…だよぉ…」
ポポはシーツにしがみつく。涙が飛び散って、シーツに点々としみがつく。
そんなポポに、ココは優しく言う。
「あのね、今まで私、ちっとも寂しくなかったよ。ちっとも怖くなかったよ。ポポちゃんや、お母さん、お父さんに、みんながいてくれたから。だから」
ココは、涙まみれの顔でポポを見る。ポポも、視線を合わせた。
「だから今も、ちっとも怖くなんかないんだよ。ポポちゃんがいてくれるから」
「ココちゃん…」
ココは、点滴の針が幾つも刺してあるその手で、ポポの頬にそっと触れた。
まだ、温かい。確かに生きていると、体温が教えてくれる。
「だから、笑って。私も笑うから。もう泣かないから。ね?」
年も性格も似たり寄ったりなのに、ココはまるで年上のお姉さんのように言ってくる。
だからなのか、ポポは精一杯笑った。はにかんで涙まみれで、それでも綺麗に笑った。
ココも、とても綺麗に笑った。
手を繋いで、双子は笑っていた。






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